楽園はどこにあるの


 駅までの帰り道を、一緒に並んで歩く。


「数学の宿題、分かんないよー」
「田島の授業だっけ?」
「そうそう。意味分かんなくない?」
「クセ、あるよな」
「これからファミレスで教えてくれない?」
「だーめ」

 淡い期待がこもっていただけに、その返事で心が曇る。

「どうして?」
「バイト」
「うそ?バイト、始めたの?」
「言ってなかったっけ?」
「聞いて、ない」
「ああ、雪乃に言ったんだな」

 なんで、そこでその名前を出すかなー…。

「ドコで、バイトしてるの?」

 断ち切るように質問をぶつけた。

「ローソン」
「漫画、読んじゃダメだよ?」
「それ、先輩がやってる」
「え、大丈夫なの?」
「客来ないから、いいんじゃん?」
「ちょっと、ちゃんと働きなよー?」
「時給、900円なんだよ」
「マジ?!高っ」
「だろだろっ!もう、毎日入れたいぐらいだよ」
「可愛い人とか、いる?」
「噂負けしてた美人なら、いる」
「なにそれ」
「ま、今度 売り上げに貢献しに来いよ」

 軽く言い放った幸治に、胸が締め付けられる。
 好き、だよ。

「アタシの節約に貢献してよ」
「おごんねーよ」
「時給高いんだから、イイじゃん」
「雪乃と、海行くから使わないの」

 だから、なんでそこでその名前を出すかなー?

「あ、そう」
「そ」

 わざとで頑張れば幸治の手に触れられる。

 そんな距離。

 なのに、一緒に歩いていても見ているものは違う。
 違ううえ、一番見て欲しくないものを幸治は見ている。

 雪乃ちゃんと、海に行くのか。

 一緒に登校すらしてくれないあたしじゃなくって、雪乃ちゃんと。


 分かってたけど。
 この関係はお情けだって。幼馴染のよしみだからだって。


 分かってたけど。



「珠樹、泣くなよ」


 やわらかく微笑まれたら、もう、なにも考えられない。


「泣いて、ない」
「泣きそう」
「マスカラ落とすマネなんてしないもん」
「うわー、見たくねー」
「頼まれたって見せないしっ!」

 カラカラ笑い声をあげて、日暮れの道路を歩いていく。
 本当に、泣きそうだった。

 そんな些細な変化に、気づいてくれた。

「バーカ」

 小さくつぶやいた。

「バカでけっこう」

 ほら。
 そういうところが、好きなんだよ。








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2007/08/18





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