じゃあ、また明後日ね。
 そう言ったら、しかめっ面された。
 やんなっちゃうよね、本当に。



 幸宏は下りで、あたしは上り。
 混んでいた下り電車とは違って、上りはイス1つ分ずつあけて座れる程度に、空いていた。
 端っこに座って、手すりに頭をのっけて窓を流れる景色を眺めた。
 変わることのない景色だけど、近づく冬に電飾が濃くなってきた。


 クリスマスは、雪乃ちゃんと、だろな。
 1日おきに幸宏と帰るとして…って計算しても、クリスマスは雪乃ちゃんの日だった。


 イブは、一緒かな。

 イブじゃ、ダメなんだよな。


 目を閉じて、浮かんできた景色に唇の端っこを持ち上げる。
 そうだよね。
 それで、出会ったんだよね。


 窓を流れる景色のように、意識が流れていく。






 同じ体育委員だった。
 生徒主体の体育祭の冬は忙しくって。
 体育祭は来年の秋だっつーに、1年前から準備に走らされた。

 だから隣のクラスだった幸宏と、よく話すようになったのは自然の流れ。
 同じ団で活動することになっていたから、一緒に準備で走ってて。

 多少、顔がよかった…とか。
 多少、弱腰…とか。

 そんなんで、気のおける人、ってやつで。



「あ、れ?」
 12月24日。
 街も人も、赤と緑とピカピカに包まれる日。
 そんな日でも、幸宏は準備で走っていた。
 教室で1人、プリントになにかを書いていた。
 ドカドカ歩いたら、カバンが机に当たって派手な音が出た。

「デートじゃ、なかったっけ?」
 気づいた幸宏が目を丸くしている。
 その目の前に、広げたピンクの携帯を見せる。


「ヒドク、ない?」
「ヒドイ」

「委員会が、忙しいの、しょうがないじゃん」
「確かに」


「ちっともあたし、拓也のこと、嫌いになんか、なって、ないっ、のにっ!」

 なんでこいつに、叫ぶようにして言ってんだろ。

 それでも、ふにゃふにゃな頭は堰を切れ!って水を流した。



「今日、イブか」
 落ち着いたあたしに、幸宏は黒板の横の日付を見て言った。
「大事なイブだよ」
「クリスマスの前日なんだから、全然大事な日じゃないって」
「フラれたあたしに、言うに事欠いてそう言う?」
「けど、クリスマスにフラれたわけじゃないんだから、元気出して」
 ムカツク通り越して呆れて幸宏を見たら、素早くセーターの袖の中に手を隠す。

「俺の友達、クリスマスに彼女と駅前のツリーの前で待ち合わせてたら、メールが来て。
 『ごめん。もうやってけない』ってフラれてた」

「マジ?」
「大マジ」

 それに比べたら、マシだなって言われた。

「全然、マシじゃないけど」

 フラれたことに、変わりない。
 フラれた痛みは、重くて大きい。


 でも、『マシだな』って笑った幸宏に、少し以上、軽くなったのは本当だった。





 ビッグイベント日を、『ただ前日なだけじゃん』って切り捨てた幸宏が、かっこいいのは、今もそう。
 流れた意識を戻して、手帳のイブの日を確認する。
 この調子で一緒に帰れたとしても、どうあがいたって雪乃ちゃんがクリスマスに当たる。
 北極に住んでいるらしいサンタさんに、願ってみようかな。


 せめて、せめてでいいから。


「あの人が、イブを大事な日だと、思って下さい」


 小声でつぶやいて、笑えた。
 欲しいものを頼むサンタに、なに願ってんだか。




「やんなっちゃうよ」
 ずるずる背中をおとして足を前に投げ出す。
 すいてるんだからいいじゃんおばさん。迷惑そうな顔しないでよ。






 嗚呼。
 イブじゃ、だめなのに。










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2006/12/05





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