うじうじする女なんて、ごめん。
だからって、1番になるのは『ごめん』って言われた。
ダメじゃんあたし。
「じゃあ、一緒に帰りたい」
「だからそれは…」
困ったようにして、茶色のセーターの袖をいじくる幸宏は、さっきまで片思いの相手で、これから先も片思いの相手。
「毎日じゃなくて、1日おきでいい」
「いや、だから」
「ね。いいよね。うん。そーしよ」
勝手にうなずいたら、幸宏が焦って顔をあげた。
「俺、彼女、いるじゃん」
「知ってるよ」
だから玉砕したんじゃん。
「知ってんなら…」
「けどさ。幸宏は彼女とラブラブできる時間が、たっっっっぷりあるでしょ?
だからそのうちの、ほんの、教室から駅までの10分でいいから、あたしにちょうだい」
ね?と、言ったら幸宏は視線をつま先に向けて、セーターの袖をいじった。
「じゃ、また明日」
我ながら、卑怯な手で幸宏を手にいれた、瞬間。
「ゆーーきひろっ!」
HR終了後、かばんをひったくるように持ち上げて、幸宏のいる教室に駆け込む。
目に飛び込んできたのは、彼女さんの隣にいる幸宏の困った顔。
「おはよ、雪乃ちゃん」
笑って挨拶をして、しっかり絡めた2人の手を、意識からずらす。
「お、おはよ」
名前のとおり白い肌をしている雪乃ちゃんは、顔をゆがめた。
ヒールなあたし。最高じゃん。
「今日、幸宏と一緒に帰りたいんだ」
「おい佐々木」
「昨日、雪乃ちゃんが幸宏と帰ったんだから、今日はあたし。
独り占めは、よくないよ」
「雪乃、こいつのことはいいから、帰ろ」
雪乃ちゃんを、強引にひっぱる幸宏の前に立つ。
けど、幸宏が止まったのは違う理由で。
「雪乃…?」
「いい、よ」
小さな声だったけれど、目には強い光が灯っていた。
「雪乃?」
「ありがとう雪乃ちゃん!じゃ、帰ろ」
先に歩き出したあたしって、優しいな。
「夜、電話するね」
「ごめんな…」
背中で、お熱い声がした。
帰り道は、静かだった。
幸宏は怒ってて、あたしは幸せで。
でも、言っておかなければならないことがある。
「幸宏。雪乃ちゃんのこと、誤解しないでね」
「してない」
「雪乃ちゃんは、自信があるんだよ」
こちらを見る幸宏の視線を受け止めずに、あたしは少しスピードをあげて歩く。
「雪乃ちゃんはね、ものすっごく幸宏のことが好きなんだよ。
それで、幸宏が雪乃ちゃんのこと、ものすっごく好きなのも分かってる。
だから、怖くないんだよ」
だって、あの目はそう言ってたもん。
『とれるもんなら、とってみな』って。
雪乃ちゃんはそういうキャラじゃないけど。
「よかったね、幸宏」
「マジで、そうなの、かな?」
立ち止まってしまった幸宏が、セーターの袖をいじっていた。
今日のセーターは黒で、濃紺のブレザーの下だと優等生みたく、キマッテ見える。
「なに?そんなに雪乃ちゃんのこと、好きじゃないの?」
「違う!…けど」
「けど?」
後ろから、サラリーマンが迷惑そうにこっちを睨んで幸宏の横を通った。
「それとも、あたしにモーションかけられてなびきそうなの?」
声のトーンが、知らずに上がる。
「それは断じて違う」
マジな顔で断られて、少し痛む体の奥。
「ダメだよ。幸宏が、しっかりしないと、ダメだよ」
声のトーンが下がったのを感じて、幸宏が歩き出す。
「わるい」
なにが悪いのか、分かってないくせに。
「本当、あんな道のど真ん中で立ち止まって。邪魔だったわ〜」
「悪かったな!」
「じゃあ、ケーキおごって」
「やなこった」
ずっと前も、こんなカンジだった。
それを壊したのは、どっちが先だっけ?
けど、言ってもいい?
幸宏が、付き合いだしから。
あたしじゃない人と、付き合いだしたから。
だから、壊れちゃったんだよ。
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2006/12/02
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