辺り一面に、ツンとした血のにおいがただよう。
 そこかしこに、人間だったものの断片が転がっている。
「吐ぐ…」
 後ろで情けない声を出しているヤサ男は、額に浮いた汗をぬぐった。
「だから、ついてくるなと言っただろうが」
 元々、血に弱いレオンをおいて自分ひとりでくる予定だったのに、無理やりついて来たのだ。
 文句を言える立場ではない。
「俺とオクタンは、一心同体じゃーん」
 やわらかな光をはなつ金色の髪を左右に振って、そう騒いだ。
「気持ち悪いことを言うな」
「照れないでよ」
 このこのっと、つついてくるレオンをよける。
「照れてない」
「またまた〜」
 吐き気はどこにいったのかと、疑いたくなるぐらいに歯切れのいいレオンに、こめかみが痛む。

 剣をつきつけてでも、置いていけばよかった。
 幸か不幸か、レオンには昔ほどの闘争心がない。
 あの時のような強さを持っていないのは、帝国に属する誰もが知っている。
 それでも引っ付かせている理由は、一心同体だからだろうか?
 バカな毒されたか、と頭を振ると、レオンが首を傾げた。

「それにしても…、ひどいな」
 強固な要塞を兼ねたプテンヘルグ城の石畳の上には、当分乾くことのない血溜りが出来ている。
 その上で、驚愕に満ちた大きな目で青空を見つめている兵士たちが転がっている。
 かがみこんで、切り離された一部を覗き込む。
「剣、か」
「よぐ、見れるね…」
「仕事だ」

 目を覆っていたレオンだったが、“仕事”の文字でゆっくりと指の隙間からブツを見る。

「一刀、だね」
「かなりの腕じゃなきゃ、ここまでできない」
 甲冑のほんの隙間から首をはねていることから、並みの人間ではないことを確信する。
「まだ近くにいるかもしれない」
 乾ききっていない紅い血が、なによりの証拠だ。
「生存者が?それとも、殺人者?」
「どっちもだ」
「どっちもいないと思うの、俺だけ?」
「いないと思うから、いないんだ」


 そうは言っても、見つけてなにが分かるのだろうか。
 そうは言っても、見つけてなにができるのだろうか。
 あのプテンヘルグ城だ。
 あの城を守る兵士がこの様で、一般人になにができる。


「だから、俺達がよこされたんだよ」
 考えを読むようにして、レオンが言った。

 レオンと行動する理由は一心同体だからではなく、ここなのかもしれない。
「気をつけろよ」
「え、別行動なの?オクタンと一緒じゃないと無理ー!」
「甘えるなっ」
 しがみつく大の男の手をひっぺがして、左へ進む。
「レオンは右だ。なにかあったら、鳴らせ」
 胸元にさげている、白い牙をちらつかせる。
「分かった。じゃーね」
 ひらひらと手を振って、レオンは右へと進む。
 殺人者がいるであろう場所での単独行動は危険だが、あの頃の強さとは比べようもないがレオンは強い。

 そして、自分自身も強いのだ。

 遭遇した場合は、時間を稼ぎつつレオンをこの笛で呼べばいい。
 レオンはレオンで、空気を通じて不和を感じ駆けつけだろう。
 胸にさげている白い牙を握って、いつでも抜けるようにと腰の剣の柄を握る。


 さあ、来るなら来い。




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詳細は、メルフォ返事用途の日記にて。

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2006/03/22
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