また、やってしまった。
 意識は、あったのに。
 なのに、また止められなかった。

 震える体を、自分の腕で抱く。
 寒いのは、ここに誰もいないからだろうか。
 誰もいない理由が、私のせいだと分かっているからだろうか。


 体が重い。
 同じようにして、頭も重い。
 気を抜いたら、すぐにでも眠ってしまいそうだ。


 けど。
 帝国の人がくる前に、ここを離れなくてはいけない。
 血を浴びすぎた私に、なんの疑いも抱かない人はいないから。
 まだ私の意識があって、私がこの体を動かせるうちに。


 大きく深呼吸してから、よりかかっていた崩れかけの家の壁から、体を起こす。
「ボンジュール」
「なっ!?」
 のけぞったせいで、頭が石にぶつかる。
 ちかちかする、目の前で。
 痛い。
「だいじょーぶ?」
「だ、誰!?」
 声のする方を見ると、くすくす笑って手を差し伸べている男がいた。
「ほら、怖くないよ」
 やわらかな金色の髪が、ところどころでくるりとはねている。
 人懐っこい笑みを浮かべて、はんなりとした手を出している男から、キケン信号は響かない。


 でも、生き残りがいるわけがない。


「あなた、帝国の人っ?!」


 そう。生き残りがいるわけがない。


 だったら、この人は帝国の人だという可能性が高い。
「レオンだよ」
「レオ、ン…?」
「もう一人、俺の友達が一緒に来てるんだ。オクタン、っていう」
「オク、タン…?」
「うん。めっちゃ無愛想なんだ」
 そう言ってまた、レオンはくすくす笑い出す。
「で、怪我はない?」
 着ているものを見ると、浴びた血が全身に染め模様を作っている。
「だいじょう、ぶ」
「服がひどいよ?」
「私の血じゃ、ないから」
 言ってからしまったと思った。
 そんなことを言ったら、私がやった…と気づかれる。
 帝国の人かどうかの質問を、はぐらかした男だ。
 信用は、できない。
「もう、大丈夫だよ」
「え…?」
 何を思ったのか、レオンはそう言って。
「怖かったでしょ?もう、平気だから」
 そう言って、白くて大きな手が頭をかき抱く。
「やっ…」
「もう、大丈夫」
 厚い胸を押し返そうともがくが、頭を抱く手は離れない。
 それどころか、血でこびりついている髪のからまりを、ゆっくりとした動きでほどいていく。



 久しぶりの、あたたかさ。
 甘く、優しい、あたたかさ。



「あったかい…」


 いつまでも続かないのは分かってるけど。
 この人が、帝国の、あの人の使いかもしれないけど。


 甘く、優しい、このあたたかさを。
 今だけ。




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抱きしめられる、幸せ。
詳細は、メルフォ返事用途の日記にて。

ここまで読んでくださって、ありがとうございます。
2006/03/22
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