「コウ、こっち向いて」
「かっこいい俺に、こっち向いてほしいのか?」
「あーはいはい。そうかもね」
 どうしても、このアゴのラインが上手く描けなくて。
 だからこっちを、向いてほしいのだ。
 クルリと、パソコン画面からこっちを見たコウは、途端にむっとした。
「俺は描くなって、言っただろ?」
「どうして?」
 どうしてペンも、紙も持っていないのに分かったの?
「ゆかえ、難しい顔してる」
「ウソ?」
「ウソ」
「ねえ、ちょっとだけ」
 手を伸ばせば、いつだって届く。
 そっと、あごに触れる。耳元から、もう一度、あごへと。
 やわらかい。
「コウ」
 でも、しまっていてくずれていない。
「コウ」
 なんて素敵な、被写体なの?
「コウ?」
 どうして手首を掴むの?
「ムラムラ、しちゃうだろ?」
 栗色の瞳を、ぐるりと回してみせる。
「あら、きぐうね」
 首を腕を絡めれば、すっぽりとあたたかさに包まれた。
「ゆかえも、ムラムラきた?」
「かもね」
 絵は、またでいいや。
 くすぐったいな。


 心が、くすぐったいな。











































ここまで読んでくださって、ありがとうございます。
2007/05/21




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