付き合いだした当初、ゆかえはスケッチブックと鉛筆を持って、来た。
「なにそれ?」
「身体、貸して」
「俺の身体使って、一人でスルの?」
「バカ」
ゆかえは、絵を描く。そういう学部で出会ったのだから、当然のことだ。
「ダメ」
「すぐ終わるよ?」
「ダメ」
唇をとがらせても、ダメ。怒りたいのは、こっちだ。
「キレイに、描くよ?」
「それでもダーメ」
「どうして?あたし、コウの気に障るようなこと、した?」
うっすらと目を光らせだしたゆかえは、本当に描くことが好きだ。
そして、ゆかえは好きなものしか描かない。
「ダメ?」
「ダメ」
あんまりにも好きだから、ゆかえはドコかにいってしまう。
そんな時間、ほんの瞬きする間ですら、欲しくない。
たとえその時間が、ゆかえの幸せであっても。
「俺だけを見てて」
通り越えたトコロじゃなくて。
「俺だけを感じて」
紙にあたたかさを写すんじゃなくて。
「俺だけ。だから、ダメ」
スケッチブックと鉛筆をとりあげて、その手に自分の手をすべりこませる。
「好き」
目を細めた理由が、嬉しさからだと。
「バーカ」
そうでありますように。
ここまで読んでくださって、ありがとうございます。
2007/05/21
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